2012年10月19日金曜日

懸垂下降の8の字結びは「デスノット“死の結び目”」?


文登研(国立登山研修所)が発行している登山研修をパラパラとめくっていたら、興味深い記事とショッキングな記事を見つけた。

最初に興味深い記事
2005年発行の20号の「クローヴヒッチとムンターヒッチその正しい呼称と結び方」という一節で、著者は登攀技術に関する論客として知られる松本憲親氏
こんな細かいことを指摘するよりも、もっと事故に直結しがちな本質的なことがあるだろうという気持ちになるが、氏はそのような意見に対しても本文の中で反論している。

氏の主張の要点は
1.カラビナにはスパイン側とゲート側がある。これらの結びは、カラビナに2本のストランドが同時にかかるが、より強い加重が想定されるストランドをスパイン側にかかるよう結ぶべきである。
2.懸垂ムンターの制動手側のロープがカラビナのゲートの安全環に干渉してゲートが開放される条件はロック機構が開放されるネジの回転方向でロープが接触した場合に限られる。
として、1.2.を満たす実際の結び方を図解で説明している。

表現の正確さが重んじられ、わかりやすさへの配慮は、あまりされていない。たとえばロープのことをロウプと記述するなど、松本氏なりのこだわりが色濃く感じられる。ただし言わんとしていることは理解できる。ゲート側にストランドがかかり且つゲートが開いた場合にはカラビナの強度は著しく低下することは「続 生と死の分岐点」でも指摘されている。さっそく近いうちに試してみたい。


次はショッキングな記事
ムンターヒッチうんぬんよりもはるかにインパクトのある記事が21号の懸垂下降のロープの結び方に関する記事「ダブルストランドフィギュアエイトノットは危険だ」である。著者は同じく松本憲親氏

私自身は懸垂下降のロープ結束は40年前からかたくななまでにダブルフィッシャーマンズノット一本やりだ。ただ、松本氏も書いているように、難点は岩にひっかり易く、ほどきにくくなるので数多くのピッチを下降するときには時間がかかる要因となる。
それを解決する方法として考え出されたのが8の字結びによる懸垂ロープの結束だと私も理解している。最新の「イラスト・クライミング」でもロープ同士の連結の結び方の一つとして8の字結びが紹介されている。ロープ同士の連結とは本番クライミングにおいては、すなわち多くの場合、懸垂下降のロープ結束に該当する。

ところが、この記事では、その8の字結びを「危険だから使用を中止しよう」と呼びかけているのである。
記事の中にもあるように過去死亡事故があったことを私も知っているし、その事故に対する岳人誌上でのレポートも当時読んだ。しかしながら、該当する死亡事故の原因は末端処理として奇妙な細工をしたことであって、8の字結び自体に問題があったわけではないというのが私の理解だった。

事実、松本氏はこれらの事故が末端処理のミスにより起こったことを認めている。この末端処理のミスにより死亡事故が起こったということを認めたことは松本氏にとっても苦渋の判断だったということが「結索理論の論理的帰結ながら“デスバックアップ”と仮称して中止すべきである」という表現からも推察される。なぜならば、事故の原因となった奇妙な末端処理はどうやら松本氏が提唱したことが、その発端となったと推察される記述がある。
すなわち「懸垂下降ロウプの結合で筆者の提唱した手を目に入れる方法は誤りやすい事実がある限りは・・・」とあるからである。
ここまでの話はあくまでも奇妙な末端処理に死亡事故の直接的な原因があるという話だが、後半の主張は一歩踏み込んで、そもそも懸垂下降用に8の字結びを使うこと自体をやめるべきだという論旨に発展していく。
懸垂下降用としてのロープ結合における全面的な8の字結びの否定である。

そして死亡事故がアメリカで発生し、8の字結びは「デスノット」あるいは「インスタントデスノット」と呼ばれており、具体的に文献名を明記し、その危険性が指摘されているというのである。
そして8の字結びが解けるメカニズムも説明されおり、懸垂下降用に8の字を使っているのは日本だけだとしている。
フィッシャーマンからダブルフィッシャーマンへ定着するまでに複数のクライマーの人命が失われたことを忘れることはできない

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2014/09/20追記
今月から懸垂下降時のロープ連結方式をオーバーハンドノットに変更した
日本における産業用ロープアクセスの専門家としてインストラクタ資格を有する福原信一郎氏とロープレスキューの堤信夫氏
この10ヶ月の間に機会があって二人から直接説明を受ける場を得た
二人は共にオーバーハンドノットを推奨する
特に福原信一郎氏には3日間にわたってほぼマンツーマンでご指導いただいた
産業用ロープアクセス技術は安全性の観点から見てきわめて高水準であることが実感できた
ちなみに8の字とは異なり、オーバーハンドノットはロープの結び目の回転がない
また、グリグリ2によるリード確保時のロープ操作方法についても福原氏に指導いただいた
福原氏は還暦を迎えた現在でも5.12オンサイト能力を維持しつづけている
なお、8の字によるロープの連結だが“岳人786号「結び目強度の実験検証」”によれば3.77KNで回転するが懸垂下降における結び目にかかる力は3.77KNに達することはないので問題ないとしている
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2014/10/03追記
ハーネス連結時のエイトノットについても福原氏から幾つかの指摘を受けた
まずは美しいエイトノットであること
そして最後の締め込みである
ハーネス連結時のエイトノットは結び目を中心にして四方向にロープが存在する
結び目部分を片方の手で握り締め、もう一方の手で四方向それぞれにしっかりと引いて締めこむ
ロープの余端はロープの直径の10倍から15倍程度
こうすることにより末端処理は不要となる
したがって懸垂下降時のロープ連結に関しても四方向に締め込みをしっかりと行い、余端を30cm以上確保すればエイトノットで実用上問題はない
また、「登山研修」で松本氏は懸垂下降用に8の字を使っているのは日本だけだとしているが、日本アルパインガイド協会と技術協定を行っているENSA(フランス国立スキー登山学校)では懸垂下降のロープ連結に8の字を使用しているので、これは松本氏の指摘と相違する

下記URLを参照願いたい

https://www.youtube.com/watch?v=l_5z6A5Z1h0


なお、このYOUTUBEではメインロープに荷重する前にセルフビレイを解除しているが、メインロープに荷重してからセルフビレイを解除する手順が正しいやり方だ

以上のように本件は掲示後2年を経過して一定の結論が出たと考えている



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